弥穂と壱樹の対戦開始に遅れること数分。
相方がデッキスリーブに最後のカードを入れたのを見て、雅人は息を吐いた。
彼の手元にはシャッフルし終えた赤いスリーブのデッキが置かれている。
「目についたカード入れるだけ、ってわりには長いぞ」
そう言いながら、同じテーブルですでに対戦を始めている兄と弥穂を一瞥する。
いつの間にか弥穂もブレザーを脱いで対戦に臨んでいた。
「わりぃ。なかなか入れたいカードが多くってさ、デッキから抜くカード考えるのに手間取った」
と健太はデッキをシャッフルし始める。
投入した新カードの枚数は実に17枚。「今回一番補強されたのは茶勢力!」と開封中に豪語しただけあって、使いたいカード多かったのだ。
◇10枚目 RED COMMAND
「じゃんけん、」
互いのデッキをカットし終えて、じゃんけんで先攻・後攻を決める。
数えきれないほど繰り返してきた相方とのじゃんけん。
雅人は彼がじゃんけんで出す確率の高い手も知ってる。グーだ。
「ぽん」
テーブルの真ん中めがけて出された2人の拳は、それぞれ、パーとチョキ。
健太が先攻に決まった。
「雅人、気づいてたか?」
「ん……なんだ?」
「お前、じゃんけんでパー多いぜ」
肩をすくめる健太に、雅人はぽかんと口をあけた。
「先攻配備フェイズ、魔性の支配力を茶Gにしてターン終了だ」
健太はマリガンが無いことを告げると、手札からそのカードをGとしてプレイした。
眼鏡を上げ、気を取り直して雅人もターンを開始する。
「配備フェイズ、ハマーン・カーンを赤Gにしてターン終了」
雅人は手札を見て、今後のプランを練る。
赤デッキは、健太が使うような茶デッキのようにユニット・パワーが取り柄ではない。
交戦に強いユニットも少なからず存在はするが、肝はなんといってもコマンドカードだ。
「ドローして配備フェイズ、ドモン・カッシュを茶Gにしてターン終了」
「比類なき力を赤Gにしてターン終了」
互いにGカードを2枚、3枚と場に並べる
雅人の場のGは赤一色、健太の場のGは茶一色。
普段なら軽量ユニットで健太が先に仕掛けていてもおかしくはないターン数だったが、このゲームではまだ動きはなかった。
「ドロー、配備フェイズ。ノブッシを茶Gに……」
「待った」
健太が語気を強めた4ターン目、雅人はカットインを宣言した。
マリガン無しの初手、つまり『ゲームを作れる手札』を持ちながらここまで動きが無いということは、健太得意のあのカードを引いているに違いなかった。
そうでなくても、ビートダウンデッキの4ターン目を好き勝手やらせるわけにはいかない、と雅人は1枚のコマンドカードを相手に見せる。
「悲痛な過去をプレイ。Xは3」
支払った合計国力分だけ、相手のGをロールするカードだ。
4G目にカットインされた健太にはどうすることもできず、プレイした茶G1枚をリロール状態で残しターンを終了せざるせざるを得なかった。
「ドロー、バウを赤Gにしてドライセン(袖付き)をプレイ」
敵軍ターンにリロールする効果とゲインを持ったシンプルなユニットだ。
「僕の方が先にユニットを出すって状況も珍しい」
雅人はそう言ってターンを終了した。
健太はカードを引き、グラフィックカード(『Gガンダム』属性)を即座にGに配備する。
「でも、そっちのドライセンはロールインだろ。俺のシャイニングガンダムは――」
「リフレクタービットッ!」
雅人は予想的中とばかりに小さく笑い、そのカウンターコマンドをプレイした。
ユニット(又はコマンド)のプレイを無効にし、持ち主の本国上に移す効果は、ある種の除去カードのような威力があった。
敵軍ターン中限定とはいえ、無能な士官とは比べ物にならない性能だ。
「ちっくしょ…ターン終了だ」
「シャイニングガンダムを見てゲームを始めたんだろうけど、それだけじゃ動きが野暮ったいよ」
カードを引いた雅人はR・ジャジャをGとして配備すると、戦闘フェイズを告げた。
リフレクタービットの効果は、あくまで本国の上に移す効果。ダメージを与えて『完結』させなければいけない、とドライセンのカードを手に取る。
「シャイニングガンダムは仕留める!」
「防御ステップだ!ドラゴンガンダムをプレイ」
「むっ」
3枚残った茶Gから現れたクイックユニット。健太が今しがたパックから引き当てた箔押しバージョンであった。
速攻・強襲に加えて防衛時には高機動を得るという、特殊効果の集合体のようなユニット。
残ったグラフィックカードによってさらに攻撃力を得ることも可能だ。
「防衛だ!」
自分のドライセンと対峙するそのユニットを見て、雅人は新弾のカードとは思えない既視感を覚える。
ガンダムウォーネグザの公式ホームページで行われている「カウントダウン・カード公開」企画。その初期でこのカードが公開された時から、健太が興奮して騒ぎ立てていたため、コスト・戦闘修正・テキストを覚えてしまっていたのだ。
「そのカードの防御力は2だから、これで処理だ……ファンネル!」
雅人は手札からコマンドカードをプレイする。
防御ステップに敵軍ユニット1枚に2ダメージを与え、ターン終了時にカードを1枚引く効果。
終了まで見て手札が減らないカードであり、これでドラゴンガンダムを破壊すれば健太が一方的にカード枚数で損をしたことになる。
「あっ!俺がドラゴンガンダム使うってわかってたからそれ入れたろ!」
「否定はしないよ、強いて言うなら、このカードがどれだけドラゴンガンダム相手に機能するかを試すためさ」
当たったカードを見ていて偶然目に止まったから入れてみたのだが、とは雅人は言わなかった。
「ならその試運転は失敗だな、ファンネルにカットインでドラゴンに共に戦う仲間をプレイ。オールスペック+4だ!」
健太は、どうだと言わんばかりに手札からカードをプレイする。
茶のユニークコマンドであり、パンプアップカードとしては破格の戦闘修正+4/+4/+4を1国力で得させる事ができる。
これでドラゴンガンダムは、ビットを受けながらもドライセンを圧倒できるだけの戦闘力を獲得したことになる。
「防御のこの場面で使ってくれるなら……うれしいね」
雅人はその戦闘力が自分の本国に向いていないことを指してそう言ったが、正直なところ、ドライセンも撃破されるのは厳しい。
ゲインが最大値で成功しても負けが必至であるため、大人しくドライセンの撃破を認める。
「ノブッシをGにして、今度こそシャイニングガンダム!」
雅人の手札3枚にカウンターコマンドが無いことを祈って、健太は再びそのカードをプレイした。
「通しだ」という呆気ない相手の答えで場に出たそのカード。効果で、本国3枚目からチボデー・クロケットセットされ、戦闘力は一気に6/2/6となる。
「戦闘フェイズ、シャイニングガンダムを地球、ドラゴンガンダムを宇宙に出撃だ!」
健太は勢い良く雅人の本国を指差すと、そう宣言した。
彼の場にはリロール状態のGが4枚残っており、ビットのターン終了時効果で引いたカード含め、相手は手札から何か仕掛けてくる可能性はあった。
だが雅人は、さすがに都合よくカードを持っていない、とばかりに「攻撃は全部通るよ」と宣言した。
「シャイニングガンダムのゲイン!……本国上はマスターガンダム、3修正を得るぜ」
無傷だった雅人の本国が、1度に13枚も削られる。これは本国の3分の1にもなる量だ。
驚異的なユニット・パワー。悲痛な過去やリフレクタービットがなければ即死だった。しかし現に赤はそれを捌くだけのコマンド・パワーがあった、それだけのことだ。
雅人は配備フェイズを告げて、ドライセン(袖付き)を6枚目のGカードとしてプレイした。配備エリアは赤一色。
「このターンまで持ちこたえたのだから、今度はこっちが反撃に移るよ――シナンジュ!!」
箔押しされた赤いユニットカードが戦闘配備する。
赤勢力に少ないながらも存在する、交戦に強いカードの1枚。そのカードが、本国差を埋めるために健太の本国に向かって攻撃を開始した。
つづく
※この物語は架空のものであり、実在の人物・団体・地名等とは一切関係ありません。
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書き下ろし
掲載日:12.06.03
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