ハンガーのビグ・ザムで煽っておいて……さらっと手札から2ターン早い換装。
雅人の兄だけあって、容赦ないね。
本国のカードを捨て山に移しながら弥穂が考えたのは、それだった。
AEUイナクト(デモカラー)とビグ・ザムから受けた本国ダメージは9点。――過去に2ケタの本国ダメージも出したことのある弥穂にとって――驚くほどの値ではなかった。
彼女が懸念しているのはむしろ、ビグ・ザムの火力のほうである。
「ターン終了だよ」
そう宣言する壱樹。彼のGは現在5枚。
次のターンに1枚増えるとして、ガンダムAGE-1ノーマルでどこまで凌げるか。
弥穂はカードを引いた。
◇11枚目 火の雨を抜けて
「あたしの配備フェイズ」
弥穂は胸のときめきでハンガーにもらったバウを赤Gとして配備エリアにセットする。
場にはガンダムAGE-1ノーマルが1枚。
ビグ・ザムは彼女のユニットすべてに同時にダメージを与えてくる。となれば、弥穂が取るべきは量より質であった。
「ガンダムにアセム・アスノをセット」
「本来の種類がユニットであるGをプレイ・改装できるキャラクターだね」
「戦闘修正も申し分ない」と壱樹は頷く。
前のターンにロールコストを使い果たした彼には、ビグ・ザムはじめ場のカードに改装や無コスト効果も無く、このターンは一切動けいない。
戦闘フェイズを宣言した弥穂は、アセム・アスノがセットされたガンダムAGE-1ノーマルを宇宙に出撃させた。
「ダメージ判定ステップに赤Gでゲイン……忘れえぬ惨劇(X=2)が出て8ダメージでいきたいです」
「了解。受けるよ」
「ダメージ判定ステップ中にガンダムの効果で回復します」
弥穂はAGE-1ノーマルを手元に帰還させ、Gカードを見やる……グラフィック(AGE)2枚、AGE-1タイタス、デスペラード、ドン・ボヤージ、バウ。
ロールコストが残っているため、アセム・アスノの効果でAGE-1ノーマルを同タイタスに改装することはできる。それでビグ・ザムのダメージで撃破されないだけの防御力は得られる。
「ドロー、配備フェイズに入るよ」
壱樹は3枚の手札からカードを引き抜く。プレイする手の角度から、Gカードのプレイだと判断する弥穂。
ビグ・ザムのダメージ量を上げるためには当然に思えた。
「武力介入を効果でロール状態でGとしてプレイ」
「武力……介入」
弥穂はロール状態で出されたそのGカードの名前を読み上げてはっとする。
『ユニーク』……そのカードパワーから、デッキへの投入枚数が制限されている特別なカードだ。
ガンダムウォーネグザにおいてファースト・ユニークであるそのコマンド、弥穂も知らないわけではない。
「Gとしてプレイするだけでユニットに3ダメージを与える事ができるカード」
と、少女は自分の手元にあるガンダムAGE-1ノーマルに視線を落とす。
対象にとられたのはもちろんそのユニットであり、防御力6に3ダメージが蓄積される。
ビグ・ザムのこのターンの最大火力はGの枚数=6点だと思っていたが、甘かったことを思い知らされる。
「ビグ・ザムの足は遅い。だから、デッキの動きで助けてやらなければ」
壱樹はそう言って戦闘フェイズを告げる。
宇宙エリアのビグ・ザム、地球エリアのAEUイナクト(デモカラー)、それぞれが戦闘エリアから弥穂の本国を包囲する。
「アセム・アスノでGのガンダムタイタスを宣言」
出撃した2枚の相手ユニットを見ながら弥穂は1コストを払い、紫GになっているガンダムAGE-1タイタスを指した。
相手の手札にさらにダメージカードがあれば致命傷だが、やるだけのことはやるつもりだ。
「防御には出ません。前のターンと同じく、9ダメージでいいですか?」
「うん。応酬後にビグ・ザムのテキストで5ロール。AGE-1タイタスに5ダメージを与えたいな」
残りのGを全てコストにして、壱樹は宣言する。
やはり相手の要はビグ・ザムの効果であり、それを凌ぐことが肝心。防御に出撃して戦闘ダメージを受けるのは危険だ。
「あたしならやれる」弥穂は内心そう自分に言い聞かせ、GカードであるガンダムAGE-1タイタスを手に取った。
「カットイン、改装します」
「っ…武力介入にで3ダメージ入ってるから、AGE-1タイタスに改装しても撃破は免れ――」
「あたしに残り1コストが、このカードがあります。ビームラリアットッ!」
弥穂はその手から、びっと音を立てコマンドをプレイする。
カットが終わり、効果の逆行・解決が行われる。改装されたユニットはガンダムAGE-1タイタス。ビーム・ラリアットによって戦闘力が僅かに上昇する。
だが、その僅かな値でも、ビグ・ザムの最大火力が8であるため壱樹からすれば厄介であった。
「これを避けるとは……さすが紫のユニットだ」
壱樹はそう言うと、仕方が無くターンを終了する。
本国枚数は10枚近く弥穂が多く、ダメージレースにおいて彼女が相当に有利である。
「あたしのターン、戦闘フェイズ!」
弥穂は迷わずガンダムAGE-1タイタスを手に取る。
壱樹は再びロールコストを使い切っており、本国は無防備となっていた。
「ガンダムタイタスを地球に出撃!」
「厳しいが、こっちは何もできない」
「ゲインはスパロー(X=2)です!」
向かってくる――前のターンで撃破できると思っていた――ユニットを前に、壱樹は自分の本国を数える。
弥穂は彼のその姿を見ながらも、間髪入れずにコマンドカードをプレイする。
「AGEシステムでガンダムタイタスはさらに+2進化。ゲイン合わせて11ダメージですっ!」
「ははっ……脳筋だなぁ」
ガンダムAGE-1タイタスの防御力は地で10。
もはやビグ・ザムの火力での撃破は困難を極める戦闘力であった。
「ノーキン結構、あたしはこれで行きますよ」
と弥穂は笑ってターンを終了した。
壱樹の本国は、ドローで3枚になる。
「良いカードを引いた……俺の配備フェイズだ」
壱樹はそう言いながら、ハンガーのビグ・ザムを緑Gとして場に配備する。
続けて場のビグ・ザムにセットされたのは、ノリス・パッカード。交戦的な戦闘修正と速攻・強襲を与えるエースキャラクターだ。
「さらに、オペレーションカード忌まわしき記憶をそっちのAGE-1タイタスにセット」
セットされたユニットが全てのテキストを失う赤のセット型オペレーションだ。
ガンダムAGE-1タイタスが持つ強襲、ゲイン、改装、サイズアップテキスト……それらがいっぺんに喪失する。
なかでも強襲が無力化されたのは弥穂にとって痛恨だった。壱樹の場にあるAEUイナクト(デモカラー)は破壊状態で手札に戻る事ができるいわば”無限ブロッカー”ユニット。それを相手にするには、その防御力3を貫通するための強襲が必要不可欠なのだ。
中途半端なユニットはビグ・ザムで破壊され、エース級ユニットはオペレーションで半無力化という状況に、弥穂は目の前が暗くなる。
「戦闘フェイズ、さっきのターンと同じように宇宙にビグ・ザム、地球にイナクトを出撃だ」
負けが脳裏をよぎった弥穂の耳に彼の言葉が届き、彼女は「え」とおもわず戦闘エリアを見る。
「ノリスが追加されているから、さっきより強力な12ダメージだ」
「……はい。ガード使うだけで、全部受けます」
残り25枚の本国を削ろうと相手も躍起になっているのか。それなら、まだ勝機が……?
弥穂は一瞬そう考えたが、ある可能性を思い至り、途端に肩を落とす。
残り3枚の本国で、無策はありえない。となると、ドロー時に「良いカード」と言ったのは、ノリス・パッカードや忌まわしき記憶ではないのではないか。
緑、赤、紫、各G1枚の場から繰り出されるカード。スナイパーライフルではタイタスは落とせない……世間知らずだろうか、それなら負ける。
「あたしのターンですね」
世間知らずか、と考えながら弥穂はカードを引く。
目に飛び込んできたのは、コマンドカード。
「ううん。勝てるかも」
弥穂はそのカードを手に、前を向いた。
壱樹も、防衛の手段を握っていることを隠そうともしない。そこまで弥穂を侮ってはいない様子であった。
「いくぞっ…!」
戦闘フェイズを告げ、ガンダムAGE-1タイタスを戦闘エリアに出撃させる。
アセム・アスノがセットされ、AGEシステムの戦闘修正をコインを乗せ、それでも忌まわしき記憶を背負った弥穂の唯一のユニットが地球エリアを駆けた。
「攻撃ステップ規定後、」
「はい!」
「来た」と身構える弥穂。
手札に握ったカードは……白い狼。コマンドを回避するカードだ。
「ファーデーンの光と闇をプレイ!」
「あっ…え?」
世間知らずではない?と弥穂は目を丸くする。
知らないカードだ、紫の。
「全てのユニット……ビグ・ザムとイナクトはリロール!」
「ああっ!」
眼前でリロールし迫るビグ・ザム。ノリスがセットされたそのカードを前に、どうにかできないかと手札を確認しようとするも、焦ってカードを取りこぼしてしまう。
対策は出来い。ビグ・ザムのダメージ効果を使われ、速攻によりガンダムAGE-1タイタスは無残に崩れた。
次の壱樹の攻撃、12ダメージを受け流すだけの本国はない。
「負けました」
弥穂は投了を宣言した。
つづく
※この物語は架空のものであり、実在の人物・団体・地名等とは一切関係ありません。
Txt:Y256
書き下ろし
掲載日:12.06.08
あたしのガンダムウォーネグザに戻る