「経験は?」

 健太は佐助の隣に座り、彼のデッキ内容を見ながらそう聞く。
 ある程度カードは揃っているな、というのが初見での感想だった。
 佐助はにっと笑って「童貞っすよ」と答える。

「俺もだ。じゃないくて、ネグザの対戦の経験だよ」
「あー……体験会なら出たことありますけど」

 その答えに思わず彼の顔を見る健太。
 対戦したこともないのに「部長になる」とは大きく出たものだ。いや、対戦したくてカードゲーム部を見つけたのに、自分たちがいなかったせいでこういう言い方になったのだから、申し訳ないとは思う。
 「ともかく」と小声で切り出す。

「デッキは悪くない。弥穂もネグザ始めてそんなに長くはないから、つけ入る隙はあるはずだ、彼女のデッキは――」

 佐助はなぜ彼が味方をしてくれるのかはわからなかったが、忠告は聞くことにした。

 一方、部室の逆サイド。
 弥穂と雅人は彼らの”作戦会議”とやらが終わるのを座して待っていた。

「珍しいわね。あたしと雅人の気が合うって」
「珍しい?はじめてだろ。それより、安直なプレイだけはするなよ」

 と雅人はメガネのブリッジをくいとあげた。

「いいのよ?今から三つ巴でも」
「むぅ……これ以上ややこしくなるのは困る。これで妥協しよう」

 弥穂は「かわいくない」と口を尖らせる。
 そこで健太と佐助の”作戦会議”が終わったのか、こちらを向いた。

「待たせたな」

 座卓につき、弥穂と佐助の対戦が始まる。
 部室の窓は型板ガラスで外の景色は見えないが、雨はまだ降り続いているようだった。


◇14枚目 ティターンズのやり方


「ディーヴァ(強襲揚陸形態)を紫Gにしてターン終了よ」

 足を崩して座卓に向かう弥穂。
 先攻になった彼女は、6枚の手札からカード1枚を選んでGにする。

「配備フェイズ。ハンブラビ(ヤザン機)を黒Gにしてターン終了」

 長方形の座卓を挟み、向かい側であぐらをかいて座る佐助。
 後攻のドローフェイズにカードを引き、7枚になった手札からそれをGにした。

「グルーデック・エイノアを紫Gにするわ」

 そう宣言する弥穂から少し距離を置き、雅人は腕を組んで観戦している。
 彼の場所からは弥穂の手札が――彼女の手の動きに合わせて――ちらちらと見えていた。

「オイラのターン。配備フェイズ、ジャマイカン・ダニンガンをGにして、」

 佐助は丁寧に、というかどこかぎこちない手つきでGカードを並べる。
 彼の側に座った健太は、初めての対戦にしては意外に落ち着いているなと感心していた。

「このカードをプレイ、ハイザック(ジェリド機)」

 ロールコストが無くなった佐助はそれでターンを終了する。
 弥穂は「ゲイン持ちの小型ユニットね」と確認しながらデスペラードを紫Gにした。

「ターン終了よ」
「ドロー。配備フェイズ、ヤザン・ゲーブルを黒Gにして、ジ・O&シロッコを配備」

 ロールコストを必要としないACEカード。
 第2弾『刻の鼓動』に収録されたタイプは、相手の戦闘配備ユニットをロールで場に出したり、自分のユニットを戦闘配備のようにリロールで場に出したりする共通の第1テキストを持っていた。

「戦闘フェイズ、ジェリドハイザックで宇宙エリアから攻撃」
「なにもできないわ」
「よし、ゲイン……ジムIIだ!」

 表になったのは、ハイザック(ジェリド機)と同クラスのZ属性ユニット。コストは2国+[黒1]。
 弥穂は「3ダメージね?」と本国のカードを手に取る。

「いいや、先輩。このジムIIはゲインで表になった時のロールコストを3として扱う効果!」
「プレイする時は軽いくせに、ゲインレベルは高め。便利ね……5ダメージ」
「ジェリドハイザックを帰還させて、ターン終了」

 気を取り直してカードを引く弥穂。左手に持った手札には、ガンダムAGE-1ノーマル。
 彼女自身、最速でプレイが可能な4ターン目までに手札に来てくれることが多いように感じていた。

「配備フェイズ。グラフィックカードを紫Gに配備して、ガンダムAGE-1ノーマルをプレイ!」
「共有できると思うな、先輩!」
「ん?」

 威勢よく出したAGE-1ノーマルを指して、佐助が黒GをロールしてACEの効果を宣言する。
 戦闘配備が無効化されてしまうのは覚悟していた弥穂だが、佐助の言葉を聞いて眉をひそめた。

「継紫。あのACEの効果は、プレイを無効にしてから場に出すモノだから、(プレイされて場に出たターン中有効である)共有の効果は使えないんだ」
「はは……し、知ってたわよ」

 苦笑いを見せる弥穂に、雅人は「大丈夫なのか」と肩を落とす。
 弥穂はそれきりターンを終了するしかなく、手札をまとめた。

「ドロー、ジムIIを黒Gにしてターン終了」

 佐助はカードをリロールし、引いたジムIIをGにしただけでターンを終えた。
 ハイザック(ジェリド機)はゲイン持ちであるため戦闘力もそれなりにあるが、その真価は自動型のテキストであった。
 交戦中にゲインの戦闘修正を得た場合に、敵軍プレイヤーはG以外の自軍カード1枚を破壊するその効果は、場にAGE-1ノーマルしかない現状の弥穂には突破できるものではない。

「なるほど。ハイザック……か」

 弥穂は息をついて、笑みをつくる。
 手札に握ったカードは、ハイザック(ジェリド機)のような厄介なユニットを排除するのに便利だと実感する。

「武力介入を紫Gにロールプレイ。ハイザックに3ダメージよ」
「やりやがった」

 短く舌打ちして、佐助はハイザック(ジェリド機)をジャンクヤードに移す。
 弥穂は戦闘フェイズを告げながら、そのユニークカードを貰った日のことを思い出す。

「本当に貰っちゃっていいんですか?ユニークなのに」
「あぁ、ユニークといってもプロモだしね」

 デッキを見てもらった時、弥穂が武力介入を持っていない事を知った壱樹がくれた3枚だ。
 その時に「訳あって、余るくらい持ってるからさ」と言った彼の表情が妙に記憶に残っている。

 武力介入による露払いを得たガンダムAGE-1ノーマルは宇宙エリアを進む。
 ハイザック(ジェリド機)による防御しか考えていなかった佐助は無理に防御せず、ゲイン2の乗った6ダメージを本国に受けた。

「回復テキストを使うわ」

 ゲインで表にしたAGEシステムを戻し、弥穂は本国を3回復しながらターンを終了した。
 手札は4枚。共有も戦闘配備も疎外されたがまだまだ戦える、と彼女は前を向く。

「配備フェイズ、ジェリドハイザックを黒Gにして、バイアランを配備。ターン終了」

 佐助は2枚目のハイザック(ジェリド機)を諦め、そのユニットを配備する。
 強襲とゲインを持った高機動ユニットだ。

「ドロー、配備フェイズ」

 弥穂はカードを引いて、手札を整理する。
 気軽にGにできるカードは無いが、幸い6G目が今すぐに欲しいという状況でもない。このまま攻めよう、と。

「戦闘フェイズ、このターンもガンダムを宇宙に出撃!」
「迂闊だっ、継紫」

 思わず雅人が声を上げる。
 弥穂と佐助が彼に見直ると同時に、健太が「まさ、助言はなしにしようぜ」と指を立てる。

「すまない、続けてくれ」

 と、雅人は中腰になった腰を下ろす。
 知った顔でも、ちゃんとした『勝負』という体でおこなっている対戦に口出しはご法度。
 そんなことは雅人とて百も承知だったが、今回は自分の代わりに戦っているとあって、彼女の無警戒なプレイがどうしても気になってしまったのだ。

「防御ステップにメッサーラをプレイ!AGE-1ノーマルの全ての戦闘力を-2」
「クイックユニットっ」

 メッサーラ。クイック・戦闘配備という奇襲性に加えて、マイナスの戦闘修正を与えるユニットだ。
 そのカードの地形適正を見て、弥穂は雅人の言葉の意味を理解した。

 雅人にすればジ・O&シロッコがあるにも関わらずバイアランをリロールせず4国力を残した時点で、なにかカードを握っているのは予 想できる。黒4国力となれば、最低でもメッサーラのある宇宙は避けるべきなのだ。
 そういった雅人の考えの外側、佐助のカードはさらに続く。

「肉薄で防御力を-3。AGE-1ノーマルを破壊!」
「全部でマイナ5?それにはカットインで改装よ!」

 ガンダムAGE-1タイタス。基礎防御力が6あるため、防御力が-5されても破壊はされない。
 しかし、戦闘エリアが宇宙であるため、メッサーラが防御に出撃することができる。

「防御ステップ規定でメッサーラをタイタスにぶつける」
「なら、防御中にガンダムタイタスの交戦中効果を起動」

 佐助側から見ている健太は、ゲイン4かコマンドによる戦闘修正で切り抜けるのか?と戦闘力5/0/2となったAGE-1タイタスを見やる。

「ダメージ判定ステップ、ゲイン!」

 表になったカードはフリット・アスノ。ゲインレベルは1だ。

「改装!」

 4人の視界にフリット・アスノが入るのとほぼ同時に弥穂は宣言した。ガンダムAGE-1タイタスに変わり、手札からはガンダムAGE-1スパロー。
 ガンダムAGE-1タイタスのテキストとゲイン=1によるプラスの戦闘修正と、メッサーラと肉薄によるマイナスの戦闘修正。
 それらが解決された後のガンダムAGE-1スパローは戦闘力6/0/1でかろうじて場に留まり、速攻でメッサーラを打ち破った。

「迂闊さをカードパワーで……」

 ガンダムAGE-1スパローを帰還させターンを終える弥穂を見ながら、雅人はそう呟いた。
 佐助は第6ターンを始めるが、配備フェイズにカードは無い。

「ジ・O&シロッコに地形適正を得させて、宇宙エリアからバイアラン、地球エリアからジ・O&シロッコで攻撃!」
「ガードして全部受けるわ」
「ゲインは……ヴァナルガンドハイザック、12ダメージだ!」

 2枚のユニットを帰還させる佐助。
 前のターン、消耗戦の末に本国を守った返しの攻撃としては十分すぎるダメージ量だ。

「次にヴァナルガンド引かせるわけにはいかない」

 弥穂はカードを引きながら相手の本国の方を見る。
 ドローで手札に加わったグラフィックカードをとりあえず場にセットして戦闘フェイズを告げた。

「攻撃規定で地球にガンダムスパローを出撃させるわ」

 佐助が干渉しないことを告げると、弥穂は6枚のGカードの一番端、元はディーヴァ(強襲揚陸形態)だったGをロールした。

「ゲインは4!9ダメージよ」
「受けるぜ」
「ターン終了よ」

 弥穂は3枚の手札を握り宣言した。
 5国力残して手札3枚。これも対戦相手から見れば何か持ってるとしか思えない状況だが、佐助はどう出る?と雅人はそんなことを思った。

「配備フェイズ、ハンブラビをプレイ。カットインでジ・O&シロッコの効果でリロール状態で場に出す!」

 佐助の場に並んだ2枚の5国力ユニット。
 共にゲインと強襲を持ち、バイアランは高機動、ハンブラビはユニット除去効果を持っている。
 今度はこの2枚で攻撃だ!と佐助は楽しそうにユニットを両手に掴んだ。

「宇宙エリアからバイアラン、地球エリアからハンブラビで攻撃!」
「クイックプレイ!Gストライダー」
「……!?」

 防御ステップ規定前に弥穂が宣言したカード。それはクイックと戦闘配備を持った紫のユニットであった。
 ガンダムAGE-2(Gストライダー)――絶対に防御が必要という状況で無いにもかかわらず戦闘力に差のあるバイアラン相手に向かってくる理由はひとつしかなかった。

「AGE-2……ACE-2ノーマル!」


つづく


  ※この物語は架空のものであり、実在の人物・団体・地名等とは一切関係ありません。

Txt:Y256 
書き下ろし
掲載日:12.06.26


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