TCG専門店『カードステーション』店内の一角に設けられた対戦スペース。
 テーブルがいくつも並べられており、それぞれに椅子が6脚用意されている。
 店員である藤武肇(ふじたけ はじめ)から対戦を申し込まれ、弥穂と健太はそこに足を踏み入れた。

「少年少女、こっちだ」

 通路側一番端のテーブルに陣取った藤武はそう言って手をあげた。
 対戦相手となる健太は彼の向かい側に、弥穂はその隣に座り荷物を降ろす。

「では、先攻決めはじゃんけんでいいかね?」
「はい」

 デッキをシャッフルしながら会話する健太と藤武。
 そんな彼らを見ながら弥穂は、買ったばかりのシングルカードを袋から出し眺めた。

「では、私が先攻だな」

 先攻が決まったのか、藤武が――ダブルオーガンダム柄の紫色のスリーブが着けられた――カード6枚を手元で確認しながらそう言った。


◇5枚目 まずは、知ること


「私のターンはアヴァランチエクシアを青Gにしてターン終了」

 白いテーブル天板の上、藤武の手元にカードが逆向きで置かれる。
 それを見て健太は憚ることなく「青黒デッキか…」とつぶやいた。
 アヴァランチエクシアは青と黒のロールコストを持つデュアルユニットである。
 そのため、その1枚がGになるだけでデッキの色というものがある程度透け見えてしまうのだ。

「俺のターン、ドロー。ドモン・カッシュを茶Gにしてターン終了」

 健太もカードを引くなり、Gカードの配備を宣言しターンを終える。
 藤武は頷いて2ターン目を開始する。

「配備フェイズは00グラフィックを黒Gにしてターン終了」
「こっちもGガンダムのグラフィックを出します」

 互いに、ドローフェイズに引いたばかりのグラフィックカードをGとした2ターン目。
 だが、健太はこのターンからカードを配備することができる手札であった。

「配備フェイズ中さらにネロスガンダムを配備!」

 2国力の戦闘配備ユニット。
 テキストはシンプルだが、それゆえ使いやすく、序盤の攻撃要員として健太は気に入っていた。

「茶勢力の先鋒といえばそのカード。こちらの色ではもちろん妨害出来ない」
「戦闘フェイズ。ネロスガンダムが地球に出撃させます」

 藤武はダメージ判定ステップにグラフィックに内蔵されたガードを宣言し、本国に2ダメージを受けた。
 ロール状態となった3枚のカードを手元に、健太はターンを終了した。

「先にダメージ出されたね。ドロー」

 藤武は含みのある笑いをひとつして、前のターンと同じ黒のグラフィックカードを配備する。
 これで3国力。

「青1と黒1のロールコストを支払い、グラハム専用ユニオンフラッグカスタムを配備!」
「っ…」

 健太は唸る。
 弥穂は、そんなに良いカードなのか、と藤武の手元を覗き込む。
 グラハム専用ユニオンフラッグカスタム……戦闘配備で4/1/2、ゲイン内蔵。なるほど、ネロスガンダム以上に前衛的なデザインのユニットなのか、と彼女は理解し椅子に座りなおす。

「戦闘フェイズ、カスタムフラッグを宇宙に出撃させる!」
「こっちは何も動けないっす」
「では、ダメージ判定ステップにゲインを起動。…グラフィックカードだっ」

 表になった藤武の本国上のカードは、黒いグラフィックカード。Gサインはフラッグと同じ「ガンダム00」。

「うっわ…すご」

 グラフィックカードのゲインレベルは4。知ってはいたが、実際に決まるとかなりダメージ量が増えるなと弥穂は声を上げる。
しかもまだ3ターン目。早い段階でこのダメージを出せるのは驚異的だ。

「8ダメージ受けます」
「カスタムフラッグを帰還させたら、ターン終了だ」

 健太はカードを引く。
 マスターガンダムをGにしてさらに手札のカードを抜き取る。

「貴婦人修行をセット」

 ロールコストを代替するオペレーションカードだ。
 場に置くことで、ロールコストを1支払う事ができる。

「ネロスガンダムじゃフラッグを倒すのは難しい…となると!」

 健太は戦闘フェイズを告げて、ネロスガンダムを前に出した。
 相手のゲインで表になったグラフィックカードをドローで”引かせる”こともできるが、今のうちに本国を削らなければ後半厳しくなるという判断だ。
 ネロスガンダムを一方的なブロッカーとして使うのはまだ先でいい。

「全てのカードがロール状態のこちらは、この3ダメージ、受けるしかないな」

 藤武は本国のカード3枚を捨て山に移し、健太はターンを終了する。

「私はこのターンももちろん、Gの配備からスタートさせてもらおう」
「その色…」

 アヴァランチエクシアの青G、黒のグラフィックカード2枚、その隣に配備されたカードを見て「緑?」と健太は目を見開いた。
 緑G……ガンダムデュナメス。緑と赤のロールコストを持つデュアルユニットである。
 青黒の2色デッキではなく青緑黒赤の4色00デッキだったのかと健太は困惑する。

「戦闘フェイズに入り、カスタムフラッグを宇宙に出撃させる」
「ダメージ判定ステップまで何もできません」
「ではゲイン起動…2だ。ガードされても5ダメージ通させてもらう」

 青Gをロールして起動したカスタムフラッグのゲイン。
 彼はデッキの9割以上のカードを「ガンダム00」属性で構築しゲインの成功確率を高め、さらにデュアルカードゆえゲインレベルが総じて2以上であった。
 表になった刹那・F・セイエイのカードを本国に返しながら藤武はカスタムフラッグを手元に戻し、ターンを終了した。

「蓄積ダメージは、こっち13点であっちは5点。8点ビハインドか…」

 健太はそんなことを言いながらカードを引く。
 配備フェイズに貴婦人修行を茶Gにした後、ユニットカードのプレイを宣言した。
 初手の6枚から手札にあり、この4ターン目にプレイしようと思っていた彼の主力だ。

「シャイニングガンダムをプレイ!」

 貴婦人修行と茶Gをコストとしてロールし、戦闘配備する4国力ユニット。
 ビームサーベルを構えた重厚感のあるイラストを、素直にかっこいいな、と弥穂は見つめた。

「2コスト!このカードは本国5枚を見てGFキャラをセットできる!」
「ははっ無論知っている!カードショップの店員だからね!」

 ノリよく言葉を交わす2人の男性の横で、会話になってるのか?と弥穂は首をかしげた。
 本国のカード5枚を見て、健太は表情を明るくする。

「チボデー・クロケットをシャイニングガンダムにセット!」

 チボデー・クロケットは自軍ダメージ判定ステップ限定ながらセットグループの破壊を無効にする能力を持ったGFキャラだ。

「戦闘フェイズ」

 健太は場を確認しながらそう告げる。
 フラッグの攻撃は強烈だったが、8点の本国差などは中盤からでも十分逆転できる。
 シャイニングガンダムはテキストによってGFキャラを得たことによって”それ”ができる戦闘力を得ていた。

「宇宙にネロス、地球にシャイニングガンダムを出撃!」

 コストの支払いが終わった時点で、残ったG1枚はグラフィックカード。
 次のターンのフラッグの攻撃力を僅かに削ぐよりも、ゲインを使うことを健太は選んだ。
 藤武のデッキほどではないが、彼のデッキもシャイニングガンダムのゲイン属性「Gガンダム」のカードは多いのだ。

「ダメージ判定ステップまでは何もないよ」
「シャイニングガンダムのゲイン起動!魔性の支配力…3ゲインで12ダメージだっ!」

 弥穂の手前、反撃の狼煙とばかりに声を張る健太。
 対面の藤武も「これは強い」と頷いた。

「しかし、だ」
「え?」
「私が青Gでゲインした時点、Gをこの構成で残した時点で、少しは『警戒』するべきだ!」

 藤武はもったいぶった大きめの動作で、手札からカードを引き抜く。
 彼の配備エリアには、ロール状態のカスタムフラッグと青Gの他に、3枚のGカードがリロール状態で残っている。
 3国力、黒、黒、緑。

「し……しまった!」

 健太は一変険しい顔で藤武の右手に握られたカードを見やる。
 弥穂は何が起こっているのかわからず、ただ成り行きを見守るしかなかった。

「GNバズーカ。シャイニングガンダムは9/5/9の戦闘力を持っているようだが、このカードで一撃だ」

 敵軍ユニット1枚を無条件で破壊するコマンドカード。
 ダメージ判定ステップであるためチボデー・クロケットの破壊無効テキストはタイミンを得ているが、その効果の起動コストは2。
 ロールコストを使い切ってしまった健太にはこれを使用することは出来ず、シャイニングガンダムはチボデー・クロケットもろともジャンクヤードに移った。

「1ターン待てば安全だったね」

 そう言って、本国のカードを手に取る藤武。
 弥穂は考えるように自分の手元にあったガンダムAGE-1ノーマルのカードを見る。

 カードのプレイ、テキストのプレイ、何をするにもロールコストが必要。
 いかに強いテキストを持とうが、宣言できるだけのロールコストを用意しなければテキストが無いも同じなのだ。

 自分と相手の、手札や場、残ロールコスト。それらを見て起こりうるプレイを予測し行動しなければいけない。
 自分よりプレイ歴の長い健太ですら間違うのだ、カードをほとんど知らない自分は、こういう場面での適切な予測や判断などはできるはずもないだろう。
 そういう意味で、まずは発売済みのカードを『知る』ことから始めるべきなんだろう。弥穂はそう思った。

「ネロスの3ダメージは受けよう」

 気持ちを改める弥穂の隣で、健太は無策で攻撃に出撃したことを後悔しつつ「ターン終了」と宣言した。
 2人の使用カード総数は同じであるが、主力であるシャイニングガンダムを失った自分に対して、藤武の手札にはまだ主力ユニットが潜んでいる。
 そんな予感が健太にはあった。


つづく


  ※この物語は架空のものであり、実在の人物・団体・地名等とは一切関係ありません。

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書き下ろし
掲載日:12.05.04


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