これはひどい

「京子、今日何の日だかわかるか?」


武志がシャッフルをしながら得意げに言った。
今日?なんかの記念日?


「火曜日、つまりオフィが更新される日だー!!」
「あ、そっか」


言われてみれば、今日は火曜日ね…。
夏休み入ると、曜日感覚なくなるんだよねぇ…まぁ、課外授業があるから平日と休日の違いくらいはわかるけど。


「で、オフィシャルサイトの更新がなんなわけ?」
「制限が発表される”かも”しれない日だぜ?」
「制限?」
「そう!ゲームのバランスを調整するために、禁止とかデッキ1枚制限とかを決めるアレさ」


公旗が前に、強行偵察がどうとか言ってた奴ね。
バランス調整するくらいなら、最初から調整して発売すればいいのに。


「ふーん。はい、ジャンケン」


あたしは、扇風機の首振り設定を切って手を出した。


「おう。ってお前、扇風機こっちにも回せよ!ここ俺の部屋だぞ!?」
「気にしない、気にしない♪」


勝ったのはあたし。今日もご機嫌白中だ。


「はい、G置いて終了〜エアコンとかないの?」
「うっさい。俺も赤G出して終了」


夏だし、髪でも切ろうかな…。
あたしはそんなことを考えながらドローする。お、面白いカード来た!


「はいはい。Gで終了〜」
「ドロー。そういやさぁ、宿題どこまで終わった?」


武志は緑のGを出しながら言った。
赤緑00…?青赤じゃないんだ、珍しい。


「英語は終わった、日本史はもうちょっとだけど?」
「貸してくれよー」


予想通り。


「いいけど、その代わりあたしの数学やってよ」
「うえwこのゲーム勝ったら考えるわー。わざと負けんなよ」


当然!勝って言うこと聞かせるし!


「Oガンダム、プレイするぜ?」
「は?」


武志は宿題の話の流れを切り、ユニットを出した。
ってまだ2ターン目だけど??


「いや、Oガンだって」
「わかるけど、それ2国だっけ?」
「YES YES YES!!」


なんというか。
テキストはあたしも知ってる。…やばいかも?


「あんた、なんでそんなん持ってんのよ?」
「公旗さんが使わないからってくれた♪」


あー。あの人使わなそうね…


「じゃ、ターン終了だぜ」


あたしはドローする。基本Gだし…Gはこの後好きなだけもらえるからいらないんだけどなぁ…。
あたしはそのGをそのまま出して、手札のユニットを握る。


「バックホームをプレイしてターン終了よ」
「ドロー、G出して…攻撃ステップ行くぜ?」
「いいわよ」


Oガンダムが宇宙に出撃する。


「何もないわ。3点ね」
「と3枚見て、このカードをもらうぜ?」


あたしの本国のカード3枚を、見てハンガーにハイマットを送る藤野。
残った2枚のカードも藤野に見られてるわけだから、かなり不利…2国でこのパワーとかヤバすぎるでしょ!


「ターン終了」
「はい、ドロー。やっぱりね〜」


あたしは引いたGを出す。
バックホームで引くカードに賭けるしか…。1枚は武志が知らないのが行くはず!


「攻撃ステップ、バックホームを地球に出撃!2枚をハンガーに移して…」


移ったのはGと部品ドロボウ。


「お、部品だ」


武志が声を上げる。
部品で1ターン稼げるとか、そういうこと考えてるんでしょ?でも、今回のこのカードはそれ以上の”価値”があるのよ!


「3点与えてターン終了よ」
「よし、俺のターン。Gを出して攻撃ステップ行きたい!」
「オッケーよ」


武志はあたしの許可に唖然としながらも、Oガンダムを宇宙に出撃させる。


「じゃ、3点で」
「いいのかよ?また見るぜ?」
「いいわよ?」


あたしのデッキの上3枚を見て、武志はハンガーにカードを移す。


「最悪!インフィニンットジャスティス持ってくなんて!」
「じゃあ部品撃てばよかったじゃんかよ」


言い合いながらあたしのターンを迎える。


「ここで部品よ、対象Oガンダム」
「は?まあ許可だけど」


武志は渋々Oガンダムを手札に移す。
あたしはハンガーからGを出しただけで配備フェイズを終える。


「攻撃ステップ、いい?」
「いいぜ」


…勝った!


「ガンダム奪取作戦をプレイするわ」
「ん!?」


手札を見て「名称:ガンダム」のユニットをもらえるコマンド!
確実にOガンダムいるし、上手くすればヴァーチェも狙えるかも。


「なんだよそれー!くそ、ほら」
「あーどうもどうも♪」


武志は手札を見せる。
Gが多いわね…ユニットはOガンだけだ。


「Oガンダムもーらい♪」
「うえ」


とりあえずバックホームで攻撃。
ハンガーに移ったのはGと私兵。G祭りすぎる…ま、Oガンで武志もG祭りにしてあげる!


「ターン終了」
「おし!来い!…っていらねー!」

これはひどい


武志はGを出した後に民意の獲得を出した。さっき手札になかったカードだから、今引いたのね。ご愁傷様。

「ターン終了」

ドローして、ハンガーからGを出すあたし。

「バックホームとOガンダムで攻撃に出撃するわ」
「お…おう」

バックホームでハンガーにハイマットが移る。

「じゃあ6点とOガンダムの効果!」

武志の本国の上はG、ヴァーチェ、サラサ。
うーん、ヴァーチェかな。

「オレのヴァーチェ…」

そして、悪いけど次引くのはGね。

「ターン終了」
「…ドロー。Gで終了」

あたしはドローしてハンガーから私兵とハイマットを出して攻撃に移る。
…正直もうゲームにならなくない?
武志の本国に10点のダメージを与えながらあたしは思った。
相手の手札を見るハンデスとかは強い効果だと思う。けど、本国を見て次に引くカードを延々操作できるのは強いというより酷い効果だよ…。

3枚見たカードは密約《20》、サラサ、破壊工作

「破壊工作をもらうわ」
「ああ」

次はサラサ!さあ何か引いてみて!

「ドロー…サラサ再臨を配備フェイズに使うぜ!」

5枚の内からカードを1枚手札に加える武志。何もなければここで投了かな?

「ありがとよ、京子!密約をプレイ!カットインで民意を!」

5枚見て結局トップの密約?

「Gを移して3ドロー。本国の下のカードを送ってさらに、このカードをプレイ!」

あたしは武志が出したカードを見て、破壊工作をハンガーに移したことを少し後悔した。
けど、ゲームは面白くなるわ!実際こっちのほうが重要♪

「…ブリッツクリークだ!」
「いいわ!」

赤緑にしたのはおそらくこのカードのためかぁ…。いいユニット出ませんように。
あたしは許可を出す。

「よっしゃ!!7枚の内からこのカードを出すぜ!」

場に出たのは、デュナメス、デュナメス、キュリオス…うげ…3枚も出たよ00ユニット。

「攻撃に出撃!デュナメスの効果で配備エリアのOガンダムに4点だ!」

宇宙にキュリオスとデュナメス、地球にデュナメスを出撃させた武志が言った。
バックホームの効果で補給してあったOガンダムがなかったら、本国に16点ものダメージを受けるとこだったわ。

「あー、危ない危ない」
「いや、この攻撃が通った時点で俺は勝ちを確信したぜ!」

は?

「何?」
「帰還ステップ、戦いの駆け引きだ!」

追加ターンを得るコマンドだ!
あたしの手札は、このターン反撃できなったことからわかるように何もない。
ということは、さらに本国に16点のダメージは必至。

「あーあ。負けちゃった」

あたしは手札を床においてそう言った。

「どーよ、俺の00ブリッツは」
「はぁ?まぐれよまぐれ。デッキ1枚制限のカードに助けられたわね〜」

あたしはデッキを切りなおしながら頬を膨らます。
そういえば、ブリッツクリークも半年前に制限になったんだよね?
今日がその制限の日だとしたら、案外明日から環境事態が変化しちゃうんだろうか…。

「もう1戦よ!もう1戦!」

あたしは腕を振り上げた。


×××


その後、夕方まで対戦して、あたしは武志の家を出た。
こう暑いと、自転車こぐ気も起きないわ…。

「こんちわー」

あたしはカキヨのガラス張りのドアを開けて中に入った。
時間もあるから寄り道ってわけ。

「お、今日は一人かい?」

あたしに一番い声をかけたのは、以外にも信ちゃんだった。

「あれ?今日はなんかの大会だったんですか?」
「いや、公旗に呼ばれてね」

信ちゃんはカウンターに寄りかかる公旗を、困ったように見た。
あー。またこの人迷惑かけてる。

「ん?あぁ、お嬢さんか」
「はい、お嬢さんです」

あたしはそう言いながら、カウンターの向こうにいるカキヨ婆にパックを買うことを告げた。

「ん〜どうしよう」
「新弾発売直前に前のパックを買うとは、なかなか余裕だな」

公旗があたしのとなりで言った。

「余計なお世話です。欲しいカードがあるんで♪」

あたしは17弾「不敗の流派」を指差して言った。
このパックを選んだ理由はまだ秘密。

「ほう、ノワールが足りないならトレードしてあげようか?」
「結構です。白のカードはとりあえず足りてます」

あたしは断った。
信ちゃんがそれを見て楽しそうに笑う。

「君は嫌われてるみたいだね」

そう言って公旗の肩を叩く信ちゃん。
いや、嫌いって言うか…関わりたくない?

あたしは苦笑しながらカキヨ婆からパックを受け取った。

「それより、君は今日のオフィシャルの更新をどう思うかな?」

公旗は真面目な顔であたしに向き直る。
あー…ますますこの人意味不明。

「どうって、もう更新されたんですか?」
「いや、まだだ。強行偵察を葬ったときの更新は夜中だったから、今回も期待はできないな」

ん?それで何が制限来るかをあたしに聞いてるわけ?

「がんばってくださいね」
「頑張るのは私ではない。少なくともな」

公旗は含み笑いで「オフィシャルの腕前…見せてもらおう」と言った。
隙を見てあたしはドアのほうまで逃げた。
…もう帰ろう。

「あー、そうだ。21弾は来週入荷するよー」

ドアを閉めるとき、信ちゃんが教えてくれた。
上旬とは聞いてたけど、ずいぶん早いわね。

 

武志から電話が来たのは、その日の夜10時を過ぎたころだった。

「はい、もしもし?ちょっと何時だと思ってんのよ!?」

あたしは受話器越しに怒鳴る。
普通こんな時間に電話してこないでしょうが!
親父はあたしの声が大きかったためか、テレビドラマの音量を上げた。…普通は下げるよね?ね?
どいつもこいつも!

「まあ、聞けって!クイックが―」

『Oガンダムはエラッタ、シャアと赤い彗星のシャアに制限』
『そしてクイックルールが21弾から変更』

その日、その瞬間、全てが変わっていくのが、あたしにも少しだけどわかった。

でも、あたしはまだ知る由もなかった。
これから来る、”次の世界”がすぐそこまで来ていることを…。


おわり


 
txt:Y256
 
初出:あたしのガンダムウォー
更新日:11.01.19
 

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